研究概要

現在当科では、主要なテーマとして再生医療のうちの骨・軟骨再生の分野で基礎および臨床の研究に取り組んでいます。また整形外科らしいテーマであるバイオメカやスポーツ、新しい治療機器や手術素材の開発などの研究も盛んです。その他にも最近のコンピュータ技術を応用した3次元実体モデルを使った手術シミュレーション技術の開発や手術ナビゲーションにも取り組んでいます。手術技術の習得と向上を目的とした教育的研究や、また生命に直接かかわる重要な分野である腫瘍の基礎研究にも以前より力を入れています。

再生医療

骨再生

骨欠損や難治性偽関節に対する治療は整形外科にとって最も重要なテーマです。骨再生に関する基礎研究ではラットの骨髄間葉系細胞をシート状に培養し( 図1)、この細胞シートが骨形成能を有することを確認しています。更に細胞シートを人為的に作成したラット大腿骨偽関節部に移植することにより、良好な骨癒合がみられることも報告しております( 図2)。この技術を骨折や偽関節や骨壊死などの治療に臨床応用できるように日々研究を進めています。

軟骨再生

軟骨組織は一旦損傷を受けると修復されることはなく、広範囲であれば早期に関節症へ進展します。そこで膝関節グループを中心として、培養骨髄幹細胞を用いて軟骨の再生医療にも取り組んでいます。独自に開発したScaffold(足場)を使用して骨髄間葉系幹細胞を軟骨に誘導し欠損部に移植する事で良好な軟骨再生が得られること動物実験で確認しました。

再生医療の臨床応用

現在倫理委員会の承認を受け、上記の骨および軟骨再生の臨床応用が進行しています。足グループでは再生医療を用い培養骨髄細胞・人工骨複合体を移植し骨形成を促進させる試みをすでに人工足関節置換術で臨床応用されています。またさらに改良を重ねるための基礎研究も継続しています。家兎を用いてインプラント表面に骨髄由来間葉系細胞を搭載し、一定期間家兎の脛骨に埋入した後の力学試験を行っています。また膝グループでは今までの幹細胞を用いた再生医療の経験を活かして、臨床応用を目標に靭帯および半月板の再生や、加齢によって変性した軟骨の再生医療による修復の治験研究を行っています。

腫瘍の基礎研究

がん基礎研究のおかしみ・整形外科腫瘍グループ

臨床の場での緊張をふと忘れ自己の世界に耽溺出来るのが医師にとっての基礎研究です。医学基礎研究の目的は、ただひたすらにいつの日か患者さんにとって有益となることを目指したものでなければなりませんが、一方でそのことにより自己の知的欲求を満たすことも楽しみの一つです。1970 年代に米国でNational Cancer Act が採択され、がん研究がトッププライオリティに据えられて以後、がん研究はあらゆる生命科学研究の根幹を牽引してきたと云えますが、ここにきて幹細胞研究とのマージがさらにそれを加速していると思われます。さて、肉腫治療は1970 年代の化学療法の導入を境に大きく進展したのでありますが、その後四半世紀の間は予後の改善に劇的な変化は見られません。転移という生命に直結する現象の制御が依然として大きく眼前に横たわっているからであります。私たちのグループでは、現在、肉腫幹細胞に対する分子標的療法の可能性について、肉腫のcell of originとしての間葉系幹細胞研究と転移を含めた肉腫の進展過程における肉腫幹細胞と腫瘍間質細胞の役割を中心に再生医療グループとも連携しつつ研究をすすめています。昨今の環境問題などを鑑みるに、がんの研究を通じてそもそも我々人類がこのmother planet のがんなのではないかと云ったことに想いをはせることが出来るのもがん基礎研究のおかしみであるように思われるのです。

肉腫は、間葉系幹細胞起源と考えられているがその発生機序はまだ解明されていません。
近年のがん幹細胞の研究によりに肉腫幹細胞の存在も示唆されおり、これらの研究を通じて肉腫細胞起源としての間葉系幹細胞と環境因子としての間葉系幹細胞の役割を研究することに より肉腫の発生機序、転移のメカニズムの解明と治療への応用を目的に研究を行っています。

スポーツ医学

スポーツ障害として日常診療で多くみられる腱・靭帯付着部症(enthesopathy) についての研究を行っています。スポーツ現場でのオーバーユースによる腱靭帯付着部障害は意外と多く、アキレス付着部症や足底腱膜炎、腱板損傷、野球肘、テニス肘、ジャンパー膝といった疾患があげられます。基礎研究では腱・靭帯付着部の解剖学的、組織学的特徴を明らかにし、各疾患部位におけるenthesis organという新しい概念から考察することでその発症要因、病態の解明を行っています。また、臨床研究では、主として切らずに治す保存療法の可能性について、ストレッチングを主とした運動療法、足底挿板、サポータなどを用いた装具療法、ヒアルロン酸注入療法、体外衝撃波を用いた治療など、アスリートたちが早期復帰できるような新たな治療法についての研究を行っています。

手術材料

人工膝関節の開発

人工膝関節は広く普及し行われていますが、長期にわたる良好な成績を得るためには、さらに材料の改善、デザインの改変、手術手技の改良が必要と考えられます。膝グループでは手技に関してナビゲーションを導入することで、骨切り、コンポーネントの設置、軟部組織のバランスを正確なものとし、さらにそれらを数値化してデータベースを作成し、20 年以上の良好な成績を目指しています。

手術用内固定材料の開発

これまで整形外科領域で使用されてきた金属製のワイヤーに代わるものとして超高分子量ポリエチレンを糸状やテープ状に編んだものを開発、作成し以前から臨床応用してきました( テクミロンテープ)。さらなる品質改良をめざして、現在も動物実験などに取り組んでいます。

3 次元実体モデルの臨床応用

工業分野で試作品の作成に応用されている積層造形法を用いて脊椎などの実体模型を作成し、術前の検討やシミュレーション、術中の空間認識の一助として利用しています。

バイオメカニクス

手関節の動態解析(注:他学との共同研究)

ハンド・マイクログループでは、手関節における靭帯損傷時の動態変化を三次元時期センサーや手関節を用いて調査し病態解明に取り組んでいます。